芭蕉林通信(ブログ)

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2016年06月29日 地震の落とし物

 母がいつも悔やんでいたのは、文化勲章を授与された堅山南風さんの茄子の絵が家にないことでした。我が家に嫁いで来た母にとっては、貧しい新婚生活の中で唯一身近にあった家宝だったのでしょう。  そもそも熊本出身の日本画家堅山南風さんは我が家の遠い親戚に当たる人で、幼少の頃は家運が傾き大変に苦労したようです。その頃から両家の間に行き来があったらしく、堅山南風さんが上京し横山大観の弟子となり大成してからも、私の祖父とはしばしば手紙のやり取りがありました。東京から届いた何枚かのハガキが今でも残っていますが、今で言う絵手紙だったり、俳句が書いてあったりと興味深いものがあります。  そうした背景もあり我が家には堅山南風さんが描いた茄子の絵の掛け軸が昔から伝わっていたのですが、どうした理由によるのか長年行方不明になっていたのです。そして母はいつもその事を残念がり、いつの間にか我が家に掛け軸がないのは祖母が親戚の結婚式に貸したまま帰ってきていないからだと思い込んでいたのです。

 ところが4月の地震で、母の家の物が多く落下し散乱したので家族集まって片付けしていた時のことです。床の間の引き出しに少しばかりの掛け軸があるのを発見したのです。大した値打ちがあるとは思えないまま、中国からの土産品と思われる拓本を無造作に開いてみますと、何とくだんの茄子の掛け軸が拓本の中に巻き込まれていたのです。何十年ぶりかに絵を発見したのですが、母の記憶違いに思わず笑ってしまうと共に、行方不明の友人を発見したかのような喜びを味わったのです。  絹地に岩絵の具で描いてあるのは茄子二個だけでなく、桃が一個描かれています。さすがに南風さんと感心したのは、茄子や桃がさりげなく描かれているのに、みずみずしい質感を出していることです。大きく取った余白も絵に静寂さと気高さを与えています。

 先日、90歳の母に茄子の絵を発見したと報告すると、『あら、そう」の一言です。母は最早モノに執着することすら忘れているのかと、いささか拍子抜けしたのでした。堅山南風さんの絵はそんなに高価なものではありませんが、母の失意そして一転して忘却した事実を物語りにしてこれからも家の宝として保管していこうと思っています。  地震がくれた贈り物でした。

2016年06月22日 地震と都市伝説

 4月に熊本を襲った地震から二ヶ月が過ぎましたが、未だ余震が続いています。地中のナマズは疲れを知らないのでしょうか。  さて、地震については自然現象の中に予兆があるという説があります。今回も事前に地震雲を見たという話を聞きましたが、にわかには信じられません。専門家でも地震予知は難しいと言いますから、自然界の予兆というのは後先ジャンケンのようなものではないかと半信半疑にならざるを得ません。

 しかし地震の影響により花や果実などの物なりが良い、一方で庭に来る野鳥が極端に少ないということが、我が家の新たな都市伝説に加わりました。これも気のせいと言ってしまえば話は続かないのですが、一つの現象としては庭のサクランボが豊作になり、しかも例年のようには鳥に食べられなかったということがあります。確かに驚くようにサクランボの実がなり、全部は取りきれなかったというのは事実でした。  家人と話したのは、これは地震により大地にエネルギーが充満して植物の発育に影響を与えているに違いないということ、反対に野鳥は臆病になって山から里に下りてこないのだろうということです。所詮人知の及ばない大自然であれば、個人が得手勝手に判断したり、夢を描いても面白いのではないかと今では鷹揚に構えています。


2016年06月17日 美しい所作

 まさか熊本で地震があるとは思ってもいなかった今年の春休み、東京に住んでいる姪が長女・長男を連れて熊本に遊びに来てくれました。赤ちゃんの時から知っている姪が今では立派なお母さんになっているのですから、時の流れが速いのに今更ながら驚きます。  歓迎会をする食事場所に向かう道すがら、姪の子供二人に図書券をプレセントしました。その時小学校4年生になったばかりの長女が、感謝のお辞儀をしたその美しさに唖然としかつ感動しました。歩いていた彼女は一瞬立ち止まり、手を前に置き、腰を曲げ、深々と頭を下げて「ありがとうございます」と答えたのです。恥ずかしながら、一瞬その子に恋心を抱いたほどです。  熊本で生活している孫がこうした美しいお辞儀ができるかとふと考えましたが、今のとことろは無理のようです。なぜかならば、東京の有名私立女子校に通っている彼女は、もろもろの所作をその学校で教えられていると推測できるからです。もちろん家庭のしつけがしっかししている可能性もあります。学校に通学し、周りの友達が美しいお辞儀をしているのであれば、ごく自然に同じ所作ができるという訳でしょう。そして、将来は素敵なレディになっていくのです。

  その点、地方の公立小学校は元気が一番といった雰囲気がありますから、礼儀は教えても美しい所作を身につけさせるのは難しいと思います。ただ会社の近くで、横断歩道を渡ろうとしている小・中学生に道を譲ると、道を渡った後に振り向いてお辞儀を返す子がおり、そういう時は今日は儲け物をしたと嬉しくなります。  かつてたまたまNHKのテレビで「女子力講座」を見たことがありますが、女優の国生さゆりさんが自分の女子力アップの方法を披露していました。一つは毎朝全国紙を読み、分からない単語は辞書でその意味を調べる。もう一つは、一流の品物を買うと大事に扱うので自然に所作が奇麗になる、というものでした。なるほど女子力が向上しそうな方法だなと感心した覚えがあります。  やはり、家庭でのしつけと同時に、学校を含めた地域社会での訓練、そして自分自身の努力が大切なのだと思いました。


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